京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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そりゃ、魚でしょう。
そりゃ、京都でしょう。

佐々木浩×勝村一夫(京都全魚類卸共同組合理事長・日ノ丸水産代表取締役)

京都市中央卸売市場は、日本初の公設中央卸売市場として昭和2年(1927年)に開場。以来、90年以上にわたり地域の食を支え続けています。その場内で、鮮魚を主とした水産物を扱う『日ノ丸水産』は、市場と同時に創業。三代目となる代表取締役の勝村一夫さんと佐々木は、ふたりが修業時代から数えて40年近いお付き合いです。互いに目利きと敬われ後輩を導く立場になった今だからこそ、日本の魚をめぐる現状やこれからについてなど、話しておきたいことがあるといいます。

■魚は京都で旨くなる

佐々木:京都市中央卸売市場(以下、市場)へは毎朝来ています。ここの活気が好きなんです。活きのいい商品に威勢のいい人々、それにともない様々な情報も行き交う。場内を回り、新しい食材と仕事のネタを仕入れて帰るときには、今日も一日頑張ろうと元気になれます。とくに魚に関しては、各地から届くのをここで実際に見て選ぶのですが、勝村さんのとこへはほとんど毎日立ち寄ってますよね。

勝村:顔を見ない日はない。佐々木さんのようなお得意さんとは、これまで築いてきた関係がありますから、こちらも毎日、信頼に応えようと努めています。もともと京都は日本料理の歴史が長く、主菜である魚には常に高い関心が払われてきました。魚を扱う私たちは、お客さんをはじめ消費者の要望に応えることで業績を重ねてこれたと思います。実際に、この市場は、魚種が豊富で質のいい魚が集まることでは日本有数の卸売市場として知られています。

佐々木:京の都は海から遠いので、魚を美味しく食べる方法を洗練させたのですね。
鯖街道で運ばれる鯖は、鯖寿司に。北海道から届く鰊は、鰊蕎麦に。などと名物料理が生まれました。それに、骨切りの技によって極上の一品に仕上げられる鱧、塩で締め鮮度を維持して運ばれ料理される甘鯛など、広く知られた京料理に欠かせない魚が多くあります。

勝村:そう、魚は京都でさらに旨くなる。それは何故かというと、京都だからなのですね。かつて都だった時代から、京都には食材のなかでも一番いいものが届けられた。江戸時代に上方の流通拠点が大阪になっても、選りすぐられた品は京都に集まってきた。そういう歴史的な背景があって、食材も揃い、京料理も発展していくわけです。ただ、京野菜など地元周辺で育てられた食材もありますが、鮮魚はそうはいきません。それで、先人たちは、質のいい魚を種類も多く京都へもってこられる方法を考え技術を磨いてきたのです。今も市場の関係者は、各地で獲れるなかでもいいものを集められるように努力を続けています。

佐々木:卸売市場の利点は、青果でも魚でもひとつの食材に品数が多く揃うので比較しやすいことがあると思います。生産地や生産者の特性や違いなどは、現物を比べるとよく理解できます。なかに、品質や味の優れたものがあれば、それを品定めの基準にもできる。また、値動きが物の動きと連動しているのも実感できる。そうやって勉強させてもらいました。ところが、天然の魚介類は獲れたてのまま、日替わりで別のものが並んでいたりする。私らはその都度、目の前にあるなかで違いを見極めねばなりません。鮮魚の場合、そこが難しいとこだし面白いとこでもあるのですが。

勝村:その始めの、見極める部分を私たちが担っているわけです。長く取引のあるお得意さんなら、どういう状態のものを求められているかまでわかっていますから、いつも同じ水準のものが用意できるように心がけています。

佐々木:近年は、鮮度を保つ技術や運搬方法などが発展し、望めば直に届きます。それでも市場へ出かけるのは、ここに来れば確実に手に入るという信用できることが大きい。あちこち探し回る時間が省けて効率もよいから、利用する機会も増えていきます。それに、情報がついてくる。勝村さんと雑談するだけでも、漁場の動向、消費傾向、ときには料理のヒントなどいろいろ有益な話が聞けるのですからね。

勝村:流通が格段によくなると、例えば、こういうことが起きてきます。京都では常に鱧の需要が高いのですが、今や国内外からいつでも集められるから一年を通して供給することも可能です。注文に応えようと頑張った結果、京都の料理屋さんのなかには、鱧の落としが年中メニューに並ぶとこも出てくるというような事態も生まれています。

佐々木:行き届き過ぎるとそういう事例もあり得ますね。私は、その魚の盛りの時期に、美味しく味わえる料理を考えたいと思います。旬の味を大事にしたい。でも、季節に関係なく、京都にせっかく来たのだから京都ならではの鱧料理を食べたいと思うお客さんの気持ちは、わからないでもない。鱧の落としがいつでも食べられることの良し悪しについては、お客さんの判断にまかせるしかないのかもしれません。

勝村:卸仲間を代表する共同組合の理事長という立場上、鱧の例は身につまされます。もともと私たちは、京都の料理人さんに応えることで魚を見る目を鍛えられた面もありますから、私たちが選んだ魚がどういうふうに料理されるのか、また、お客さんの反応はどうなのか、ものすごく気になるところなんです。

佐々木:京料理の実態は千差万別です。でも、確かなのは、魚ひとつとってみても、いいものを集めるべく長い年月をかけて整えられた仕組みがあることです。そこに勝村さんのようなひとが介することで態勢はより強固なものになっている。京料理が評価されるのも、そういうバックグラウンドがあればこそと、あらためて思いました。

■京都で魚を広めたい

勝村:京都は、料理屋さんの文化に支えられ、外食における日本料理つまり京料理と主菜になる魚との関係は揺るぎないように思われますが、それも決して安泰とは言えなくなりつつあります。遠因のひとつが、家庭では魚よりも肉類を好んで食べるようになっていることです。お客さんの嗜好の変化に合わせ、日本料理にも肉料理が当然のように加えられていますよね。このままいけば、内食でも外食でも魚を食べることがさらに少なくなっていくのではないかと危機感さえ覚えます。

佐々木:日本は今でも世界一の魚食大国のはずですよ。日本がこれだけの長寿国になっているのは、日本人が魚を食べてきたからだと言いたい。

勝村:実際、日本人の摂取量では、ついに肉類のほうが魚類を越えました。魚離れにともない、家庭向けに小売する鮮魚店も私たちのお得意さんなのですが、京都市内では今や100軒余りと、かつての10分の1以下に激減しています。魚を1尾購入して、家で三枚におろすようなことをしなくなっている。スーパーに行けば、刺身でも切り身でも買えますからね。市場では、こうしたマーケットの川下の変化に応じた商品を用意しなければならなくなっているのが現状です。

佐々木:かつては、どこの家も自分たちで魚は捌いて料理していましたけど、そうですよね、そこまでやる人は少なくなっているでしょうね。

勝村:近頃は、店によっては魚を片身で仕入れるとか、スタッフに捌き方を教えないとこもあるようです。さすがに大きな料理屋さんではそういうことはないですが、同じ日本料理でもカウンターだけの少ない席数の店なら、大型魚を1尾ずつ仕入れると、料理しても全部さばけなくなる事情もあるようなのです。

佐々木:ジビエは別ですが、肉はほとんどが既に捌かれた肉片ですから、確かに調理しやすい。家でなら、そのまま焼いてすぐに食べられますわ。それに比べて、魚料理は、焼くだけでなく、炊く、煮る、蒸す、揚げるというふうにいろいろ調理して異なった味が楽しめる。そういう味わい方をもっとわかりやすいように伝えることも大事になっているのかもしれません。

勝村:魚は、健康や美容にもよいと認められているのだから、そういう面で、魚離れを止める方策も考えられるはずです。京料理で味わう魚料理は美味しい、というのは広く知られています。料理人のつくる魚料理によって、魚の魅力を伝えていければ、家庭でも魚を使う料理をあらためて見直そうと思ってくれるのではないかと思ったりしています。

佐々木:私たちは、京都で食べる魚は旨いと言ってきているわけだし、お客さんだけでなく、地元の人にもっともっと魚を食べてもらえるようにしなければいけないのでしょうね。お互い、頑張りましょう。


取材日:2018年7月28日
京都市中央卸売市場にて