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「料理と酒の相性」

佐々木浩×岡 昌治
(リーガロイヤルホテル マスターソムリエ)

岡昌治さんは、リーガロイヤルホテル一筋に46年。その間、国内外のソムリエコンクールで数多く受賞するなど実力を発揮し、今では同ホテルを代表するマスターソムリエとして広く知られています。また、日本ソムリエ協会では会長職を6年間務め、2016年から名誉会長に就任。日本ソムリエ界を牽引する重鎮としても知られ、現在も各メディアをはじめイベントや講演会などへの出演を通じてワインの魅力を伝えておられます。今回は、料理人とソムリエ、それぞれの立場から、料理と酒の相性について語り合いました。

■よりよき関係を目指して


佐々木:今や日本料理とワインの組み合わせは珍しくありません。お客さんからワインを注文される機会が多くなりましたし、私たち料理人は勉強して自分の料理に相応しいと思われるワインを何種類も選んで備えます。ところがなかには、赤ワインだけで通されるお客さんがいらっしゃる。魚料理には相性のよい白ワインをさりげなく勧めてみるのですが、それでも返事はノー。こういう場合、どうすればいいのですかね。

岡:さりげなくご提供すればよいと思います。日本ではもともと赤ワインは白ワインに比べてそんなに飲まれていませんでした。それが急によく飲まれるようになったのは、1990年代末頃からです。理由のひとつとして、赤ワインに含まれるポリフェノールが健康にいい効果をもたらすと注目されたのがきっかけと言われています。ブームになって以来、現在まで赤ワインの消費量が多くなっています。そうした時代の流れもあって、赤ワインを好まれる方が多くなっているのでしょう。どんなときでも赤ワインでよいという人たちは、料理との相性には関心がないのかもしれません。

佐々木:そういう方もおられるというのは頭に入れておきます。カウンターに立っていますと、お客さんの反応がどうしても気になります。飲み物にしても、料理に合わせるのはもちろんですが、お客さんそれぞれの好みやその日の調子とかいろいろなことを考慮して合うと思うものをお出しする訳です。料理をより美味しく味わえて、楽しんでもらえるようにと。まあ、考えてみれば、私にはお客さんとの相性ということも大事なのですね。波長みたいなもので、会話が弾み、テンション上がって、笑いも出てという雰囲気で最後まで楽しんでもらえれば言うことありません。

岡:私たちソムリエは、料理人とお客さんの間に立って仕事をします。提供される料理の内容を把握し、料理人のイメージを察知してお客さんに伝える一方で、お客さんの反応もよく観察せねばなりません。ホテルのレストランは、席に案内して料理をお出しするまでに時間があります。その間に、少し緊張されている様子でしたら、声のかけ方、勧め方とかに注意して気持ちがほぐれるように努めます。馴れておられるお客さんは、目線とか仕草でわかりますから。そうして、料理に合わせた飲み物というかワインのチョイスを始める訳です。

佐々木:岡さんは、きき酒師でもあり日本酒についてもよくご存じです。酒類に関してはいろんな情報をお持ちのはず。仮に、私がレストランで食事するなら、岡さんのような経験豊富なソムリエさんに担当してもらえれば、料理と同じように飲み物のワインについて質問しまくり、よく知ろうとしますよ。

岡:ワインに限らず、どのような飲み物でも、こちらは持てる知識と経験をもとにお客さんにはコレというものをお勧めしますけれど、それは、あくまでもこちらの提案なのですね。味覚や風味などさまざまな要件をマッチングさせた客観的にも最適な回答であったとしても、判断される基準は個人の嗜好。好きか嫌いかという感覚が最優先されるところに、相性について考えるときの難しさがあると思います。料理と酒の相性は、佐々木さんが言われたお客さんとの相性も含め、その場に居合わせたすべてがよりよき関係になれることで成立するのかもしれません。

佐々木:美味しさはいろんな美味しい味を経験して知っていくものですよね。それとは別に、学んで知る美味しさもあると思うのです。日本料理やフランス料理だけでなく、どのような料理にもそれぞれの美味しさというか、本来味わうべき美味しさがある。歴史や風土、文化から食材や調理方法のことまで、ひとつの料理に表された物事をすべて理解する必要はないと思いますが、そうした背景から生まれたのだと意識して味わうと、あらためて知る美味しさもある。ワインの味わい方も同じだと思うのです。ただ勧められたのを飲むだけでもいいけれど、何かしら知っていれば、料理と何故合うのかよくわかるだろうし、味わう楽しみも広がりますよね。

岡:現代では料理自体がどんどん変化しています。フランス料理も例外ではありません。しかし、ワインという様々な香りを変わらず保持し続けているものがある。さすがに好みは時代とともに変化しますが、料理があってそれに合うと思われるワインといただけば美味しいと感じられるので、料理とワインをマッチングさせることが長く継承されているのだと思います。

■日本料理とワインの相性について


佐々木:日本料理が日本酒と相性がいいのは当たり前なのですが、その日本酒でさえ、これは合うとか合わないとか細かく違いをみるようになったのは、やはりワインの影響なのでしょうね。

岡:日本でワインが浸透していく過程にはいくつかのエポックがあります。先に述べた赤ワインブームもそのひとつですが、ちょうどその90年代からマリアージュとか、今はペアリングと呼んだりする料理との相性に注目することが身近になっていったと思います。ワインを見直し、勉強したりの動きが顕著になり、ワインに関わる料理人との交流も盛んでした。そうした場に日本料理の関係者の姿がよく見られるようになってきましたから、日本料理に合わせてワインを飲まれる需要もあったのでしょう。そうなると、どういうワインが合うかという相性を考えた飲み方、楽しみ方が日本料理にも浸透していくのは必然ですよ。

佐々木:それが、今では日本料理が世界に認められると同時に日本酒への関心も高まっているのですからね。やはり、料理と酒はセットでこそ互いに生かし合う。

岡:日本酒は、冷やから熱燗までだと60℃近い温度帯で飲めます。アルコール成分は温度によって変わりますから、味も香りも変化する。そうした興味深い飲み物なのが世界で関心を集める理由であると思います。その点、ワインは既にグローバルスタンダードになった飲み物。どの国で醸造されようとも、味や品質を評価する基準は世界共通なので、比較しやすい。例えば、香りや舌触り(テクスチャ−)を言葉で表すときも誰もがわかるような表現で置き換えたりします。ですから、いろんな料理とワインのマッチングでは、むしろ料理のほうの違いが明らかになるほどです。

佐々木:味わいを方向づけるのは、味と香りがひとつになった風味とされています。
そうすると、相性のキーになるのは香りだとわかる。ワインは空気に触れ香りがどんどん広がっていきます。日本酒はどちらかというと香りが内にこもる。日本料理はあまり複雑な香りを求めませんから、どう考えても日本酒のほうが合わせやすいのです。例えば、木の芽とか柚子とかの日本料理に象徴的な香りと合うワインとなるとだいたい決まってきますよ。種類が限られてくると、どの日本料理店でも同じようなワインしか置いていないことになりませんかね。

岡:ワインも日本酒も、アルコールには水にも油にも馴染むという性質があり、油脂っぽい料理を食べた後に、口の中を洗ってくれる効果があります。そのため、料理と酒が合うともいえる。しかし、生魚や魚卵はワインに本来合わないし、牛肉料理と日本酒は合わないというのは、味覚の問題だけでなく科学的にも実証されています。ところが、どうですか、今では日本料理の食材に肉類もよく使われるように料理自体が多様になっています。料理法が変わっていけば、相性のよい飲み物も日本酒だけでなくワインも含めて多様な選択肢が求められるのではないでしょうか。

佐々木:まさにそういう状況になっています。私たち日本料理の料理人もワインについてもっと勉強せねばなりません。シャルドネと言えば、白ワイン用のブドウの品種。ピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨンと言えば、赤ワイン用のブドウの品種。というような基本から始めていますが、奥が深いのは充分に実感しています。本日は、いろいろ勉強になりました。岡さんには、お忙しいなかお時間をとっていただきどうもありがとうございました。

取材日:2017年8月15日
リーガロイヤルホテル大阪にて