京都、八坂通の京料理、割烹 祇園 さゝ木

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「名物づくりにかける想い」

佐々木浩×河内 (株式会社ロマンライフ代表取締役社長)

河内誠さんは、家業の食品総合企業を引き継ぎ、1982年には京都・北山で高級洋菓子店「マールブランシュ」の開店に携わり、洋菓子の製造・販売、レストラン事業と展開。会社の発展に尽くしてこられました。今やマールブランシュは京都の洋菓子ブランドに成長し、お濃茶ラングドシャ「茶の菓」などのヒット商品が生まれています。今回は、洋菓子と日本料理、それぞれ向き合うなかで、魅力ある商品づくりにかける想いを語り合いました。

■ブランドとして必要なこと

佐々木:北山通りに「マールブランシュ」を構えられてもう35年になるのですね。私よりずっと長く京都でお商売されていて、その間マールブランシュ製品の評価を高め、広く知られるまでに進化させておられる。そうした経営手腕は素晴らしいと思います。今日は、なかでも洋菓子づくりの話を中心にお訊きしますが、やはり京都発ということは意識されていますか。

河内:私は京都生まれの京都育ちですから、京都しか知りません。逆に、京都発といった途端、多くの人が思い描く京都なるイメージを背負うことになりますので、ハードルを自ら高めている訳です。その分プレッシャーになりますが、京の名に負けないようにしなければならない。そうやって、頑張ってきました。

佐々木:私らも意識せずに作った料理でさえ、京都らしさの評価がつきまといます。これは宿命とあきらめ、受け取めていかざるをえません。でも、料理は京都まで食べに来てもらわねばなりませんが、洋菓子はそうとも限らない。とくにマールブランシュの商品は今や京都以外の各地でも、海外でも販売されていますから、製造の手を離れた後の状況は料理とはまったく異なる。料理と洋菓子は商品として同じように捉えがちですが、よく考えてみたら違いは多くありそうですね。

河内:料理は料理人さんとセットになることでグンと価値を高める場合があります。佐々木さんの料理となれば、他では味わえない独自の魅力が伝わる。美食に関心のある人ならほとんどの人は認めるよねという評価、それがブランドなのです。個人名ではなくお店の名前になれば“暖簾”ともいえます。訳もわからない人々にまで知ってもらう必要はないのです。わかってくださる方々のなかで輝いてさえいれば充分なのです。当社の場合、マールブランシュと呼ぶ名前の商品はありません。それに老舗のような暖簾も看板もありません。したがって、マールブランシュの〇〇と、ふたつ一体で価値を高めていかねばなりませんし、〇〇にあたる商品で差別化をはからねばなりません。マールブランシュというブランド力を強めていくには、一体になるものが何なのかが重要なのです。


佐々木:銘品や銘菓と呼ばれているのはきっとその〇〇に当たるものなのですね。確かに、名の知られた店にはその店を代表する商品というか、名物があります。

河内:佐々木さんのお店は名物だらけです。まず、あのピザ窯の存在感。大皿に盛られていたり、手皿で握り寿司を供する演出。二度あるご飯や人気の高いカニ炒飯といった破格ぶり。料理だけでなく、カウンターをはさんでの会話とか、流れとか、見せ方、スタイルのすべてに佐々木さんのお店にしかない魅力を感じます。

佐々木:ご指摘のとおり、じつは料理だけではないんです。ほとんどの店が料理プラスアルファの他の様々な要素で成り立つ魅力で競い合っています。スペシャリティとか名物料理ひとつでやっていけてる飲食店は稀です。うちも、「佐々木劇場」と呼ばれるように料理も含めた全体の姿で評価をいただいている。飲食店では、お客さんがそこで食事されて過ごされる何時間かの内容が問われるのですから、料理以外のことも疎かにできないのです。

河内:私どもも喫茶店やレストランを手がけていますので、よくわかります。料理にしても、毎日つくられる一皿一皿の積み重ね。旬の食材や調理方法の組み合わせを考えていくとメニューは膨大な数になりますよ。その点、洋菓子は、季節感を出したり日常的に細かい対応は求められるのですが、商品ごとに決められた作り方をあまり変えずに生産します。しかも、そうしてつくる商品は、一年中同じ姿形で販売します。お客さんにも老若男女、いろんな方に美味しいと感じてもらえるのが理想です。お店で供される料理と違い、お客さん個人の好みに合わせて手を入れたりできませんから、誰もが好む美味しさを実現させねばなりません。そういうところにも、料理と洋菓子の違いがあると思います。ですから、菓子類には商品固有の魅力を伝えるための手立てとして、ネーミングが大事になってくるのです。

■末永く愛されるものを求めて


河内:現在マールブランシュを代表する商品で、佐々木さんの言われる名物となるよう力を注いでいる洋菓子に「茶の菓」があります。ラングドシャに宇治の茶を組み合わせて開発した、お濃茶ラングドシャなので「茶の菓」と名付けました。

佐々木:確かに、和菓子にはホントはもっと勉強せねばならないくらいの意味ある
名前があります。その名を聞くだけで菓子の内容や姿形がわかる。洋菓子にも、いろいろな種類の菓子の名前がありますが、そうではなくて、商品それぞれの個性を表す名前が必要なのですね。「茶の菓」は、お抹茶とホワイトチョコレートの乳味が絶妙のバランスで、美味しいからよくいただきます。ネーミングにも洋和折衷の独特なイメージが表れていて、よく考えられているなと思います。

河内:ありがとうございます。「茶の菓」は、京都で作ることの意味を込めて付けた名です。当社には京都の歴史につながる伝統や格式といった縛りがありません。自由なのですが、それだけに他にはない独自性が求められます。そこで、姿勢や行動の規範となるように「ほんまもん」という指針を掲げています。「茶の菓」には、宇治の農園で大切に栽培した茶葉や北海道の乳でつくる自社製ホワイトチョコレートなど充分に吟味した素材を選んで開発したほんまもんであることに加え、そうした背景となる京都の歴史や風土、培われた文化や思想、それらを継承したすべてのほんまもんということを込めているのです。

佐々木:そういう意味や想いをお客さんにきちんと伝えるのも重要な仕事になってきますね。

河内:商品販売の場合、販促や集客のためのコミュニケーション・ツールなどを用意していますが、店頭で接客するスタッフにも問われればちゃんと答えられるようにお願いしています。でも、私は、商品自体に強い発信力をもたせたいと考え、パッケージにはとくに配慮するようにしています。無言でもメッセージできるデザインにして、私どもの想いを伝えていくのです。

佐々木:常々、マールブランシュは、北山本店をはじめ各出店店舗の内装とかも格好良いし、商品の包装なども含めたデザインが統一されているなと感心しています。日本料理店で、とくに空間の設えとか器で季節感を演出したり気を遣うのと同じ心持ちです。おもてなしする側としては、イメージや雰囲気からでも、何か感じてもらうのは大事ですよ。私も、近頃は、サクランボなんかは届いた木箱のままでお客さんにお見せするようにしています。そのほうが値打ちもわかっていただけるような気がします。ところで、河内さんの考えとか想いを社員スタッフにどのように徹底させておられるのですか。

河内:私はパティシエではないのでお菓子をつくれません。デザイナーではないのでデザインできません。できる人にお頼みするとか応援するしかできないのです。
ですから、日頃から、社員やパートナーさん全員とコミュニケーションを取るようにしています。私のパソコンには毎日現場から300通近いレポートが届きます。それに目を通し、コメントを返すのだけは欠かさないようにしています。そういう積み重ねですかね。

佐々木:何百人とおられる会社で、それは凄いことですよ。会社の組織に比べれば、うちはチームみたいなもので、スタッフの一人ひとりに目が届きますし、料理にしても接客にしても全員で私の目指す方向へ進むことができているのですから。

河内:組織の大小にかかわらず、基本的には信頼しあえる関係を築くことが大事だと思っています。仕事も人生も同じですよね。洋菓子なんかはとくに、末永くいつまでも愛されるものでありたいじゃないですか。そうした、人に喜ばれる名物をいっしょにつくり上げようと皆で頑張っているのです。

佐々木:河内さんにはよく利用していただいたり、お付き合いさせてもらっているのですが、奥様や息子さんをはじめ、主要な社員さんとも面識ができて感じるのは、皆さんが同じ方向を向いておられることなのです。まさに会社が成長して大きくなっている勢いを感じます。方向を明快に示すこと、日頃のコミュニケーション、そういうのがいかに大切かあらためて実感できました。今日は、お忙しいなかお時間をとっていただきどうもありがとうございました。

取材日:2017年 6月 4日