長月の八寸 第9回

「味覚の饗宴」


長月が始まる。
諸説あるが、夜がだんだん長くなる「長夜月」から転じたという説が有効である。
京都の街が、すこしずつ色づいてゆく。
頬をなでる風が、涼しさを運んでくる。
「食材が、楽しみになってくる季節です」と佐々木は笑みをうかべながら話す。
とはいえ、まだまだ現代の長月は暑さが残る。
そのような時代感覚を取り入れるのも佐々木の世界観ともいえる。
旬の食材だけを並べるだけが佐々木の八寸ではないのだ。
いわば去りゆく夏の匂いをかすかに感じさせながらも、
来るべき秋の気配をしっかり提案するのである 。
盛り込まれる前の食材が白木のまな板に並ぶだけで、一気に周りが明るくなる。
食欲をそそるのだ。

「アワビはそろそろ終わる頃です。でもやっぱり魅力的な食材なんです」
と、あわび好きの佐々木は目を輝かせながらつぶやいた。
あわびはしっかり味を含ませる。食感は弾力があり、歯を入れると
じんわりと出汁の味わいが広がってくる。



ずいきは白和えで柚子釜に盛る。
レンコンは黄身餡を詰め込み、彩り豊かにする。
秋の味覚の大きな位置を占める栗も登場である。
甘みというより栗が持つ味わいをふんわり引き出したのだ。
油でうま味を閉じ込める手法である。



寄せ卵にきぬかつぎも入る。
寄せ卵は三つ葉など香りも重要な要素となる。
茗荷は寿司仕立で仕上げる。
バチコが入ることで、味に変化とインパクトが現れる。



これらの料理をいかなる皿に盛り付けるのか、佐々木は
「あえて落ち着いた皿にしました。長月はいろいろな食材がたっぷりあるので、
それが主役です。皿はうっすら秋を感じてもらえればいいなと思っています」と。


そこにすすきをあしらうことで、秋の彩りがやってくる。
愛でることも、料理を味わう大切な項目である。
食べ進むに連れ、秋の感じが深まってゆくのだ。